ブラック企業は人材を実に効率的に使い捨てる企業である。

少し昔の話ですが、2018年11月23日(勤労感謝の日)に行われた、ブラック企業体験イベント「Black Holiday」に参加してきました。

ブラック企業は効率的である

開始5分で帰りたくなり、その後2時間いたたまれない気持ちで過ごしたわけですが、それでも確信したことは「ある種の人材を一番効率的に働かせる方法がブラック企業だ」ということです。

このプログラムは、仮想の会社「スーパーミラクルハッピー社」に入社したという体で、入社初日の業務を体験します。会社の社員は劇団の人。そして、そこで行われる業務は、実際のブラック企業の実態からなっています。

当日、山手線が遅れて5分ガチ遅刻して会場に着くと
「新入社員のくせに、なに遅刻してるのー」と、大変イヤな感じで受付がお出迎えしてくれます。
ちなみに、集合10分前についても「新入社員は、30分前に来て掃除するのが当たり前でしょー」と言われるそうです。

そこから、ブラック企業の新卒研修が始まるのですが、これが、なかなか戦慄かつ理にかなっているのです。

1時間にわたる研修の流れはこんな感じです。

1.社訓絶叫
2.販売戦略説明
3.模擬営業

1.社訓絶叫

「私たちは、人類の健康に寄与します!」
スーパーミラクル、ハッピー!

こんなことを、はちまきを締めた、営業課長に絶唱させられます。

最初は「氏ね」と思って適当にやっているわけですが、声が出てないと、ガチでどやされます。さらに、前に出されて、絶唱させられます。

仕方がないので、声を出して、振り付け付きで「スーパーミラクル、ハッピー!」とかやっていると、だんだん楽しくなってきます。
なんか、人類の健康に寄与し、正しい経済発展に貢献しているような気になるのです。

こうやって、テンションが上がったあと、始まるのが、

2.経営戦略の説明です
スーパーミラクルハッピー社の主力商品は30万円の健康器具。
「我が社の営業方針は、訪問販売。そして、対象顧客は独居老人、これだけです!」
と、ブラックなことを言い始めます。

「独居老人は、さみしい。だから、そのさみしさを癒やしてやれば、いくらでも金は払います」

明らかに人道的に大問題なのですが、先ほどの社訓絶唱で頭がおかしくなっているのか、一瞬それも「人類の健康に寄与」し「正しい経済発展に貢献」しているような気になってしまいます。

たかだか数分の絶叫でこうなってしまうのですから、これを人通りの多い道で1日やったり、富士の裾野で自衛隊と一緒にやったりしたら、効果は覿面でしょう。
さらに、毎日始業時にやって刷り込み続けたら、自分の判断力なんてなくなってしまいます。

そして、3.模擬営業が開始です。
このプログラム、あとでわかることですが、十数人の社員のうち、一人だけが劇団員です。(やってるときは、4人くらい仕込みなのかと思ってた)
その劇団員は、マッシュルームカット、か細い声、おどおどした態度という明らかに「社会的弱者」な風貌です。

彼が前に出されて、模擬営業をやらされるのですが、当然のごとくうまくできません。
「声だせって言ってるんだだよ!」「やる気ないなら、帰れ!今すぐ辞表出せ!(ガンッ)」と複数の先輩に激詰めされ、泣き出してしまうマッシュルーム。
そこに、女性の営業部長が声をかけます。

「あなた、いいスーツ着てるのね。これ、お母さんに買ってもらったの?あなた、正社員になって、お母さん喜んだよね。ここで辞めたら、お母さん悲しむよね。だから、もうちょっと頑張ろう。」

「わかりました・・・頑張ります」

さっきまで激詰めしていた先輩が「おー!そうだ!頑張れ!」「お前ならできる!」と賞賛します。

洗脳完了。

ちなみに、この後、同じ流れで、実家の年金暮らしのお母さんにローンで30万円の健康器具を買わせるという地獄のようなシーンが出てきます。。。

このように、ブラック企業では

1.絶叫などで、テンションを上げて、理性を失わせる
2.そこに、非人道的な仕事を(間違っていると思わせないで)覚えさえる
3.恫喝し恐怖で萎縮しているところに、優しい言葉をかけ、その後全員で賛美することで洗脳をするわけです。

倫理的に大問題ですが、これは、非常に効率的な人材育成です。

一番使い物にならないのが「何もしない社員」

と、いうのも、複数の企業人事担当者に聞くと、入社してきた社員のうち、一番使い物にならないのが「なにもしない社員」だといいます。

仕事を頼んで、褒めても、怒っても、何の反応もない社員。これは、教育しようがない。しかし、こういう社員は意外と多いんです。

ブラック企業は、こういう社員を動くように調教する手段を持っています。
まず、絶叫させることで、エンジンをかける。
そして、営業研修でハンドルの方向を(本人の意思を無視して)固定する
最後に、恫喝と共感と賞賛でエンジンを踏むわけです。

普通にやってたら動かない車を無理矢理動かし、利益を生んでいるのがブラック企業。
もちろん、壊れたテレビをたたいて直すような手法なので、しばらくやってたら本当に壊れるのですが、そしたらポイです。

ホワイト企業がホワイトでいられる理由

私は、比較的ホワイトな会社で働いてきました。
最初に入った外資系企業では、20年前から在宅勤務が認められており、会社に来なくても成果を出せばOKでした。このブラック企業と比べれば、社員の管理コストは非常に小さいです。

ホワイト企業がなぜホワイト企業でいられるのか。
それは、絶叫させたり、恫喝したりしなくても、仕事をする社員だけを採用しているからです。

逆に言うと、ブラック企業は、ホワイト企業で使い物にならない人材を、再生するための再生工場なのです。
もちろん、真の意味の再生ではなく、応急処置して、短時間だけ動かして、壊れたら捨てる、偽りの再生なのですが。

こういった状況を踏まえると、ブラック企業は経済合理性があるもので、そう簡単にはなくならないものだということがわかります。絶叫、教育、恫喝、賞賛の流れは、労働基準法を守っても実行出来ますから。

では、それを踏まえて、ブラック企業に入りたくない学生はなにをすればいいのか?ブラック企業に学生・子供を入れさせたくない学校・親はなにをすべきなのかを次の記事で説明します。

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